COVID-19が地域経済に与えた影響ー埼玉県編

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COVID-19は世界経済に計り知れない影響を与えていますが、我が国の経済をリードしている関東地域ではどのような影響があったのでしょうか。関東の中心に位置する埼玉県への影響について考えてみたいと思います。

1. 埼玉県の産業構造について

埼玉県の産業構造について埼玉県の人口は2020年の国勢調査で全国5位となっており、また、県内総生産についても内閣府の2018年県民経済計算では全国5位を誇っています。埼玉県がここまで発展してきたのは東京のベッドタウンという役割を担ってきたためであり、2015年の国勢調査によると、県外で通勤・通学する人の割合16.5%は全国トップとなっており、東京への依存度の高さが伺えます。
RESASの産業構造マップで埼玉県の就業者の内訳を見てみると、人数の多い順に1位が卸売業、小売業、2位が製造業、3位が医療、福祉、4位が宿泊業、飲食サービス業となっており、ここまで全国平均と同じ順位となっていることから、バランスの取れた産業構造となっていることが分かります。
(以下チャート出所:V-RESAS

埼玉県は鉄道や高速道路網が発達しているため、都心へのアクセスはもちろん、北関東、東北、北信越地方へのアクセスも良好です。その利便性の高さから企業の工場や物流センターが多数存在しており、企業の転入超過数は全国でもトップクラスです。さいたま市を中心に首都圏有数の歓楽街を擁しており、老舗の個人店から大手飲食チェーン店までが軒を連ねています。スポーツ・イベント施設としては、国内最大級の埼玉スタジアムやさいたまスーパーアリーナがあるため、サッカーの試合や有名アーティストのコンサートが行われる度に周辺の飲食店は賑わい、宿泊施設の稼働率も上昇していました。

2. COVID-19が与えた影響について

COVID-19は、上記のような産業構造を持つ埼玉県にどのような影響を与えたのでしょうか。東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県については、通勤、通学による往来が多く、それぞれの自治体が独自に感染対策をしても効果が薄いため、基本的には1都3県が緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の方針や時期について足並みを揃えてきました。
まず、生活に直結する小売業への影響ですが、百貨店については休業や時短営業を余儀なくされたことから、緊急事態宣言が発出された2020年4月の販売額は前年同月比▲71.4%と壊滅的な影響を受けました。一方で、同月のスーパーマーケットの販売額については巣ごもり需要により前年同月比+9.2%と増加しており、このほかドラッグストアやホームセンターも販売額を伸ばしていることから、消費者の行動の変化が追い風となっている業態もあることが分かります。
続いて鉱工業生産指数の推移を分析してみましょう。鉱工業生産は県内総生産の2割を超える水準となっており、鉱工業生産指数は埼玉県の景気判断において重要な役割を担っています。2020年4月の当該指数は86.5(前年同月比▲12.5%)となっており、COVID-19が埼玉県経済に与えた悪影響が非常に大きかったことが分かります。2021年6月の鉱工業生産指数は89.8(前年同月比+12.7%)となり、埼玉県経済は回復傾向となっていますが、輸送機械工業の生産ウエイトが大きく、当該分野の持ち直しが遅れていることから、全国平均と比較して回復具合が鈍くなっています。また、スポーツイベントやコンサート等についてはそのほとんどが中止となったため、会場となる施設はもちろん、周辺の飲食店や宿泊業界にも影響が波及しました

(出所:V-RESAS

COVID-19が企業の運営や従業員の働き方に与えた影響についてはどうでしょうか。多くの企業がテレワークを導入し、オフィスへの出勤日数が減少した結果、オフィスの縮小や移転が進みました。従業員にとってもオフィスの近くに住むメリットが薄れたことから、仕事部屋を設けるなどテレワーク環境の充実を図るためであったり、家で過ごす時間が長くなったことから郊外の広い家を求めて移住を決断する人が増加しました。特に東京圏から埼玉県への移住については2020年前後から純増数がに増加していることが分かります。(RESASにおいて2017年までは日本人のみであったものを2018年以後は外国人の移動も含めて集計している点は留意が必要)人口減少が続く我が国において、都市部へと移住する大きな波は変わりませんが、COVID-19は、埼玉県にとっては住まいのあり方、働き方を見直す良いきっかけとなりそうです。

(以下チャート出所:RESAS >人口マップ>人口の社会増減)

3. 今後について

COVID-19で最も悪影響を受けたビジネスは、対面で一般消費者を相手にする飲食サービス、宿泊、イベント関連業界であり、これらの産業の就業者が多い埼玉県経済も大きな打撃を受けました。景気が回復しても消費者の行動が完全に元に戻ることはなく、働き方の多様化も加速していくと考えられるため、企業は消費のオンライン化のみではなく、製造や物流においても人手に頼らないDX化推進が益々重要になってきます。私たち専門家としても地域企業の事業の立て直しやDX化推進の力となることでCOVID-19を乗り越え、より力強い経済成長に貢献できればと思います。


有限責任監査法人トーマツ
さいたま事務所 パートナー
酒井 博康

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