COVID-19が地域経済に与えた影響ー九州編
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九州地方の面積、人口、総生産額は、全国の1割を占めており、九州経済は1割経済と呼ばれています。
1次産業、2次産業、3次産業がバランスよく構成されていますが、その中の特徴として、農業産出額は全国の2割を占めており、農業のウエイトが高くなっています。令和元年の農業産出額の全国順位は、鹿児島県が2位、宮崎県が5位、熊本県が6位となっており、農業の中でも、全国の畜産の3割を占める最大の畜産物供給基地になります。農業面の新型コロナウイルス感染症による影響は、一部では巣ごもり需要による消費が増加したものの、花き、牛肉、高級果実、お茶等は需要が減少し、価格の低下が発生しました。また、技能実習生の入国制限強化等により、労働力不足も一部地域で発生しています。(見たい!知りたい!九州農業2021:九州農政局)
(出所:V-RESAS)
次に、九州地方は東京までの距離が約1,000㎞離れていますが、同1,000㎞圏内に上海等の東アジアの主要都市があり、朝鮮半島とは近接しているため、博多から釜山までは高速船で約3時間の至近距離にあります。また、九州には豊かな自然等の観光資源が豊富にあり、これまで東アジアを中心とした多くのインバウンド観光客で賑わっていました。福岡中心部の百貨店は沢山の観光客による消費が生まれ、有名飲食店では長蛇の列となっていました。
さらに、福岡市内に限らず多くのホテルが竣工し、新型コロナウイルス感染症による影響が生じる前までは、客室稼働率も高い状態が維持されていました。
しかしながら、2019年5月単月で37万人の九州への外国人入国者数がありましたが、2020年5月は273人、2021年5月は264人(九州運輸局統計)となり、あまりに極端な減少となっています。今では外国人観光客の姿を見ることもなく、街中にインバウンド客を見込んで開店したドラッグストアも閉鎖されています。
また、福岡市内の地元資本の老舗ホテルが閉鎖される等のニュースが相次ぎ、当社がご支援している宴会をメインとした施設もリストラによる人員削減を実施する等の厳しい経営環境に追い込まれています。観光業、ホテル、飲食等のサービス産業は、「Go To トラベル」による一時的な回復はあったものの、今後の見通しが立たない中で、今はじっと耐えながら、いかに再生シナリオを描くかが大きな課題となっています。
続いて、冒頭に九州は1割経済と申し上げましたが、九州に本社を置く上場企業の時価総額は、全上場企業の1%程度しかありません。電力、ガス、金融、公共交通機関といったインフラ企業を除くと、九州の地元企業で大企業と言われる会社は少なく、東京等の大企業の地域子会社や支店により経済が支えられているのが現状です。
新型コロナウイルス感染症により、当社の働き方は従来と一変し、在宅勤務が当たり前の時代になりました。オフィスにはほとんど人がいなくなり、会議体もすべてWEB媒体を使用しており、クライアント訪問も少なくなり、WEB経由で実施しています。このことは、住む場所を問わず、全国どこの仕事でも対応できるということに繋がっており、現実として九州に住みながら、東京の仕事をするケースも増えてきました。逆のケースとして東京のメンバーが九州の仕事を担当することもあります。
DX化が進んだ企業では、同様のケースが進んでいくものと考えられます。このため、東京一極集中が是正される契機となるか、あるいは、各地に支店を構えておく必要性が乏しくなり、経営の効率化のために支店を閉鎖する動きとなるのか、今後の動向を注目したいと思います。もし、支店閉鎖の動きがあれば、九州経済にも大きなインパクトを与えることに繋がりかねず、DX化の進展が地方経済に活性化をもたらす施策が重要になると考えます。
一方、九州の企業では、在宅勤務を行いたいというニーズがありながらも、在宅勤務を実施できている企業は一部にすぎないと考えられます。また、コロナ禍でクライアント訪問が十分に実施できず、業務の進め方にも変化が求められています。
新型コロナウイルスは、劇的なDX対応の必要性を急速に迫られてきました。九州の中堅・中小企業にも同様の対応が求められていますが、地方ではDXへの理解や人材不足に悩まされているのが現状です。
コロナ禍は当面の間、継続するものと思われます。また、仮に収束した場合であっても、これまでの流れは変えられないと考えられます。
九州経済の回復のためには、地域全体にDXが進展し、地域の中堅・中小企業の経営を強くしていくためにも、攻めのDX戦略を活用してくことが重要になると思われます。
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社
福岡オフィス パートナー 永野 浩