トパーズ・キャピタル株式会社
代表取締役社長
新村健氏
日本興業銀行(現、みずほ銀行)産業調査部、ストラクチャード・ファイナンス部を経て、2000年にメリルリンチに入社、キャピタル・マーケット・オリジネーション、デット・リストラクチャリング業務等に従事。銀行の資本調達・リスクアセット削減案件、銀行大口融資先の私的整理(ADR)アドバイザイリー案件等に携わり多くの銀行とのネットワークを築く。2012年、トパーズ・キャピタル創業に関わる。投資委員会メンバー。早稲田大学法学部卒業。コーネル大学ビジネス・スクール卒業。
目次
大きな意義を感じてプライベートデットファンドを立ち上げ
まずトパーズ・キャピタル株式会社(以下、トパーズ・キャピタル)の事業内容について伺わせてください。
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我々は資産運用会社として、プライベートデットファンドを運用しています。これは機関投資家の方々から資金を預かり、融資として運用するものです。リーマンショック以降、米国では銀行に代わる新たな貸し手としてプライベートデットファンドに大きな期待が寄せられていて、そうしたファンドに対する投資も積極的に行われています。現状の日本では、欧米のようにプライベートデットファンドの認知は広まっていませんが、従来の金融機関とは異なる役割を担える存在であることから、これから成長するマーケットであると考えています。
どのような背景から、トパーズ・キャピタルを創業することになったのでしょうか。
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創業メンバーの1人である取締役会長の松田清人とは、もともと同じ銀行で働いていました。その後、私は外資系証券会社に転職し、12年間ほど働いていたのですが、あるとき松田から「いつまでサラリーマンをやっているんだ、男は1回は起業しろ」と言われたんですね。それを聞いたとき、私はまんざらではありませんでした。銀行には当然定年がありますし、外資系証券会社でも退職しなければならないタイミングがいつか来ます。しかし私は好きな仕事を一生続けたいという想いがあり、自分の意思でコントロールできる人生にも憧れていたので、起業は非常に魅力的でした。
プライベートデットファンドは日本でも広まるだろうと考えたことも理由の1つです。当時、海外でプライベートデットは非常に成長していた領域で、海外で起きていることは10年後くらいに日本でも起きるだろうと思っていたためです。
貸し手と借り手の橋渡し役になれるプライベートデットファンドを立ち上げることに、大きな意義を感じたことも大きな理由です。プライベートデットが手がける企業への融資について、これまで、そして現在も日本で主に行っているのは銀行です。ただ、預金を取り扱う銀行にはさまざまな規制があることから、多様化する借り手側のニーズの全てに応えることは容易ではありません。プライベートデッドは借り手の多様なニーズに迅速且つ柔軟に応えることで金融仲介機能を補完する役割を担っています。
また日本社会、日本経済が成熟し、そして高齢化が進む中では個人の金融資産の運用が大きなテーマになります。この資産運用を考えるとき、企業への融資に対して投資する方法は、銀行に預金する間接的な方法しかありませんでした。しかし銀行への預金では極めて金利が低く、大きなゲインは期待できません。今後は個人の金融資産の運用対象としてもプライベートデットファンドが注目されることになると考えています。
やると決めたらゴールに向かうだけ、失敗はない
トパーズ・キャピタルを立ち上げた後、苦労されたことがあれば教えてください。
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苦労というわけではありませんが、ファンドであるためまずお金を集めなければなりません。そこで大手の銀行や生命保険会社などに赴き、日本でも銀行の融資機能を補完する、プライベートデットがこれから重要になる、といったお話をしました。
ただ当初は、日本にはこれだけの数の銀行があって、しかもお金も余っている、そういった状況でプライベートデットは難しいんじゃないかと言われていました。ある銀行の方に、着眼点は非常にすばらしいけれど10年早いんじゃないか、そういったことを言われたこともあります。
このような状況だったため、2012年に起業してファンドが立ち上がるまでの2年間は、実質無給で働いていました。ただ、そこでくじけるのではなく、自分たちが信じたことを粘り強く何度も繰り返しみなさんにお話して、少しずつ理解を得ていきました。
最初にご支援いただいた投資家の方々は、創業メンバーが以前の仕事を通じて個人的に関係を築かせていただいていた人たちであり、我々に対する期待も込みで投資していただきました。
やはり0から1を生み出すのは簡単ではありません。そこで大切になるのは人だと考えています。どれくらい自分たちのことを信じてくれる人がいるか。あるいは本気で一緒に仕事をした人たちがどの程度マーケットにいるのか。そういった人たちがいたからこそ、我々は資金を集めることができたのだと思っています。
もちろん我々はプライベートデットファンドを立ち上げることを意識して人と付き合ったり仕事をしてきたりしたわけではありません。目の前にあることに一生懸命取り組んできた結果が多くの方々と信頼関係を築くことになり、それがファンドへの出資という形にもつながったのだと考えています。
この0から1の部分、ファンドを立ち上げるまでが一番大変でしたね。
プライベートデットファンドとして成長できている要因は何でしょうか。
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創業メンバーとして、5人が集まったということは大きいと思います。投資に関する経験、あるいは金融機関でのビジネスの経験といった共通項がありつつ、メンバーそれぞれが異なる強みを持っています。そういったメンバーとチームを組み、ビジネスを進めることができた。その意味で人に恵まれた部分は非常に大きいと思います。
これは逆説的になってしまいますが、プライベートデットファンドというビジネスが日本で立ち上がるとは当時マーケットの多くの人が思っていなかったことも大きな理由でしょう。すでに欧米では広まっていましたが、このように、日本ではある意味でブルーオーシャンの状態であったため、成長することができたと思います。
ただ僕が思うのは、やると決めたら後はゴールに向かうだけで、失敗はないと思っているんですよ。これをやろうという目的が発見できた段階で、9割方は成功していると思うんですね。目標に向かう中で紆余曲折はありますが、その1つひとつは失敗ではなく、成功に向かっていく過程でしかない。そのように考えると、2012年に創業メンバー5人が集まってスタートした時点で、9割方成功していたのだと思っています。こういう楽観的な考え方も起業には必要です。
日本的プライベートデットファンドの役割は今後拡大する
創業されてから10年が経ちましたが、プライベートデットファンドを取り巻く状況の変化をどのように捉えられていますか。
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大手銀行が益々大型案件や海外案件にフォーカスし、小規模な案件については選別的になっていく中、今後は日本の中堅・中小企業融資における地方銀行や信用金庫などの地域金融機関の役割が一層高まると考えています。
しかし地域金融機関は地元にコミットしているため、ほかの地域の企業への融資は難しい面があります。そこで我々のようなファンドが目利きとなり、従来であれば大手銀行が対応していたような案件を我々がアレンジし、それを地方銀行や地域金融機関と協調して融資していく。これが日本の中堅・中小企業融資マーケットにおける、銀行とプライベートデットファンドとの新しいモデルになるのではないか。このようなことを創業当時に考えていました。
そうした形が当初考えていたよりも2~3年早く到来したと感じています。実際、大手銀行は積極的にビジネスモデルの変革を図っているほか、融資に対しての選別的な姿勢が加速しています。一方で地方銀行は運用難が続いていて、収益の低下が大きな課題になっています。そうした中で、我々のような日本的なプライベートデットファンドの役割はますます大きくなっていくでしょう。
実際に融資を行う際、対象の企業のどういった点を見て判断を行われているのでしょうか。
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融資先の事業内容、経営者や会社組織をまずしっかりと見ます。ただ中小企業の場合は、オーナー色が強く、組織やガバナンスが脆弱であることが多いのが一般的です。開示されている数字に関しても、上場企業と比べると透明性が下がります。そういった中で我々が重視しているのがデットガバナンスです。融資先に対しては「我々も難しい局面で融資をするという決断をしますから、しっかり返済して下さい。」と当たり前のことを言います。そして融資に対しては担保も求めます。そういった緊張感の中で、融資先の経営者には事業に頑張って取り組んでいただく。それを我々はしっかり監視させていただく。これが大切ではないかと思っています。
日本では従来、銀行がデットガバナンスを効かせることにより、日本の中堅・中小企業を強くしてきた側面があると考えています。ただ銀行と融資先の関係が長く続いたことにより、緊張感が失われている部分があるのではないでしょうか。
それに対して我々は、貸し手と借り手の規律を守ることができるのか、そういった部分を見て融資の判断を行っています。
昨今広まりつつある、ESG投資についての考え方を教えてください。
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私たちのお客さまは機関投資家であり、その機関投資家はESGに強い関心を持っています。そういった運用方針を持っている機関投資家の資金を預かって運用しているわけですから、我々としてもESGには重きを置いてファンドを運営しています。
具体的に我々がどういった貢献ができるかというと、たとえば我々の融資先である中小企業でもESG、あるいはSDGsにコミットしなければ企業として存続することが難しくなる可能性があります。そこで経営者の方に問題意識を持っていただく、あるいは融資の実行判断においてESGおよびSDGsの観点からチェックするといったことに取り組んでいます。
グローバルでは、プライベートエクイティやプライベートデットが企業のESGに大きな影響力を持っていると見なされているんです。なぜかというと、投資先、あるいは融資先に対してダイレクトに影響力を持っているためです。これを裏返せば、企業がESGおよびSDGsに取り組んでいるのかについて、我々がきちんとモニタリングする責任を担っていると考えています。
このような考えから、トパーズ・キャピタルでは2020年8月にPRI(Princibles for Responsible Investment:国連責任投資原則)に2020年8月に署名しました。
デットガバナンスの形で取引先ともエンゲージしつつ、ESGやSDGsに関してコミュニケーションしていくことが、小さな取り組みではありますが大事ではないかと話しています。
女性が活躍できる環境を積極的に整えたい
人材の採用において、重視しているのはどういった点でしょうか。
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出来上がった組織で与えられたことをやるというのではなく、トパーズ・キャピタルという未だベンチャー企業のプラットフォームを利用して自分で何かを成し遂げたい、そういった気持ちを持っている若い人に来て欲しいなと思っています。
トパーズ・キャピタルは小さい会社ですので、最後は一人ひとりの人柄や人間性がビジネスを進めていく上で非常に重要になります。頭だけで物事を考えて話す人ではなく、ひとりの人間としてみんなから愛されるキャラクターであるかどうかは大事だと思います。
好奇心や向上心を持っていること、そしてオーナーシップを持って仕事に取り組むことも大切です。プライベートデットはまだ黎明期にあると言っても過言ではないため、その可能性を信じて、自分だったらもっとこうできるのにと前向きに取り組めるか。採用のときはそういった部分を見ています。
就業人口の減少や共働き世帯の増加などもあり、女性活躍は企業にとって必要不可欠となっています。この点に関して、トパーズ・キャピタルではどのようにお考えでしょうか。
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私たちの会社では女性の方々も活躍しています。特に機関投資家の方に向けた運用資金のアドミニストレーションや内部管理部門などでは、きめ細かな気配りができる女性は非常に向いていると感じています。
実際にトパーズ・キャピタルでは、ファンドアドミニストレーションのメンバーとして働く2人の女性がいて、直接投資家とコミュニケーションしたり、問い合わせに対応したりしています。
また企業への融資を検討する際に、ESGを含めて融資の意義などについて議論をしなければならない現在において、組織として多様性を持つことは極めて重要であると考えています。そうした観点も含めて、女性が活躍できる環境を積極的に整えていきたいと思います。
先を見通せない今こそ耳を傾けたい先達の言葉
新村社長は毎朝テニスで汗を流してから仕事に取り組まれていると伺いました。
- 平日の朝、6時半から8時までラケットを振ってから出社しています。目標はアマチュアのベテラン選手として全日本選手権に出ることで、それに向けて頑張っているところです。
実は小学生の頃からテニスを始めて、大学のときは同好会でプレイをしていました。それなりに打ち込んできたつもりですが、一方、体育会で活動してきた人たちは、僕が一生かかっても追いつかないぐらいの球数を打っている。そうすると、自分が追いつくには毎朝やるしかない、それで少しでも球数を近づけなければならないと練習に取り組んでいます。
心技体という言葉がありますが、僕は「体技心」の順番だと考えているんです。まず体を健康に保ち、そして心のバランスも取っていく。これは仕事でもとても重要なことだと考えていて、そこにテニスはすごく役立っていると感じています。
経営者を目指している現在30~40代の人材に向けて、アドバイスをお願いいたします。
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今の若い人たちは変化に柔軟に対応していて、恐れずにスピード感を持って起業されている人がたくさんいます。昔の我々にはなかった感覚であり、すばらしいと思います。
一方で、これから社会が大きく様変わりしていく中では、多くの経験を積んだ先輩からアドバイスを受けることはすごく大きな意味を持つと思います。もちろん勢いは必要ですが、大きなゲームチェンジが起きている状況の中、勢いだけでは対応できないことが起きるのではないかと思うので、そういったコーチングをしてくれる人を持つことは大事ではないでしょうか。
私で言えば、外資系証券会社で働いているときに、さまざまな目上の人たちとお付き合いする機会があり、そこで多くのアドバイスをいただきました。そういう経験があったからこそ、今の自分があると考えています。
少し長いスパンになりますが、10年後に何をするのかを考えて行動することも重要でしょう。たとえば今が30代で10年後に起業したいと考えるのであれば、そのために必要なリソース、あるいは身に付けるべきスキルセットを意識し、どのように過ごせば10年後にそれらを揃えられるのかを逆算しながら日々の仕事に取り組んでいく。
また、経営者になるとどうしても自分の会社、自分の仕事でいっぱいになってしまいますが、一方でうまくいかないことも多い。ただ基本的には起業すると決めた段階でもう大成功だと思うので、あとは紆余曲折を楽しめるかどうか。そして楽しんでいることを社員の人たちに伝えて、それによってみんなが楽しんで仕事に取り組めるようになれば、すごく活気のある組織になっていくでしょう。
トパーズ・キャピタルで言えば、一人ひとりが規律を持って仕事に取り組んでくれているので管理する必要がない。これはすばらしいカルチャーだなと感じています。これは創業メンバーである5人のキャラクターや性格が組織に滲み出した結果だと思います。こうしたカルチャーを生み出していく上では30代、40代の経験はとても大切です。ぜひ焦らずゆっくり取り組んでください。
企業情報
企業名 | トパーズ・キャピタル株式会社 (TOPAZ CAPITAL, INC.) |
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住所 | 〒105-6290 東京都港区愛宕2-5-1 愛宕グリーンヒルズMORIタワー39階 |
電話番号 | 03-5425-9860 |
Webサイト | https://topazcap.com/ |