シンプレクス・アセット・マネジメント株式会社
棟田響氏
大学時代に会計士の資格を取得した後、監査法人トーマツにて監査業務に携わる。その後、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーに移籍し、M&Aにおけるデューデリジェンスやバリュエーション業務などを担当。2008年に日本におけるヘッジファンドの草分けであるシンプレクス・アセット・マネジメント株式会社に転職し、ETFの立ち上げをリード。現在はETF部門を統括するディレクターとして活躍する。
目次
監査法人、FASで働いた後に投資ファンドの世界へ
まず、現在の会社に転職した経緯を伺わせてください。
- 学生時代に公認会計士の資格を取得し、新卒で監査法人トーマツに入社しました。そこで監査業務に3年間従事した後、FAS(Financial Advisory Service)であるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーに転籍して2年間働きました。そして現在のシンプレクス・アセット・マネジメントに転職したのがこれまでの職歴になります。
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーでは、デューデリジェンスやバリュエーションなど、さまざまな業務に対応してきました。仕事は面白くてすごく充実していたのですが、徐々に投資する側に興味を持つようになりました。
M&Aで企業を買収したり、あるいは何らかの形で投資をしたりする際、FASはデューデリジェンスを行ってレポートを作成し、どういったリスクがあるのかをクライアントに報告することになります。そのリスクを採って投資するのか、あるいはリスクが大きいと考えて撤退するのか。FASで仕事をする中で、そうしたビジネス的な判断をする仕事をしたいと考えたことがきっかけになり、転職することを決断しました。
転職先を選ぶ上で、意識したことはありますか。
- 裁量を持って働けることです。そうした観点で考えたとき、上場株を中心に投資を行っている運用会社は比較的個人の裁量が大きい面があります。
また、証券会社で上場株やデリバティブの自己勘定投資の仕事をしている友人がいて、いろいろと話を聞いていると、すごく自由に仕事に取り組んでいるという印象を受けたんです。それで上場株への投資に興味を持ったことも背景にあります。
実際の転職活動はどのように行われたのでしょうか。
- 実は、現在勤めているシンプレクス・アセット・マネジメントの水嶋(浩雅・代表取締役社長)と私のおじが知り合いだったんです。それでおじと会って話しているときに、友人でファンドをやっている人がいるという話を聞いていました。
転職しようと決めたとき、おじがそんな話をしていたことを思い出し、業界がどんな感じかを聞きに行こうと水嶋を訪ねました。そのときは単に話を聞くだけで、採用されるとも思っていなかったのですが、結果的にシンプレクス・アセット・マネジメントに転職することになりました。
シンプレクス・アセット・マネジメントに入社することを決めたのは、水嶋やファンドマネージャーの人が非常に優秀で、一緒に働きたいと思ったことが理由の1つです。また、それ以前から興味があった上場株への投資を行っていること、自由に仕事ができそうだと感じたことも、シンプレクス・アセット・マネジメントに決めた理由です。
知識やノウハウがない中、手探りで進めたETFの立ち上げ
入社した後、どのような業務を担当されたのでしょうか。
- 株式のアナリストとして入社し、企業を訪問してヒアリングを行ったり、財務諸表を分析したりしています。さらに入社した当初、企業の純資産に着目したファンドの立ち上げに携わりました。そのほかにも未上場株の投資等のさまざまな仕事を経験することができ、すごく面白かったですね。
転職した翌年には、ETF(Exchange Traded Funds)のビジネスを立ち上げました。入社してすぐにリーマンショックが発生し、株価がすごく低迷しました。そこで会社としてビジネスを拡大する必要があるということで、何か新しい企画はないかという話になりました。それでETFを運営するプランを考えていたところ、別のトレーダーもETFのビジネスに取り組みたいという思いがあり、2人でゼロから調べてETFを立ち上げました。
ただ、今だったら躊躇するかもしれないですね。金融業界についての知識があまりなかったので、逆にETFを立ち上げようと走ることができましたが、今ならば難しい理由が100個くらいは容易に思い浮かびます(笑)。
実際にETFの立ち上げに取り組んでみると、「こんなことをやらなきゃいけないのか、これはもう無理だ」と思うようなことが毎日のように起きて本当に大変でした。それでもなんとか立ち上げることができて、これまでに20本近いETFを立ち上げてきました。
印象に残っている仕事を教えてください。
- 1本目のETFである「WTI原油ETF」を立ち上げたときです。原油先物というコモディティの運用には金融庁への届け出や登録が必要になるため、何度も金融庁に足を運びました。また商品取引所や穀物取引所を管轄する経済産業省と農林水産省の承諾を得る必要があるなど、本当に大変だった記憶しかありません。
当時は知識やノウハウがなく、手順を自分たちで調べながら必要な書類を作ったり会社に報告したりしていました。今であれば、何をしなければならないかはすぐに思い浮かびますし、分からないことがあっても相談できる知り合いもいますが、最初は本当に手探りで進めるしかありませんでした。
このように大変な思いをしたため、ETFを上場できることが決まったときは本当に感動しました。
以前の仕事との違いなどで、印象に残っているものはありますか。
- 会計士と投資家で、決算資料を見るときのポイントが大きく違うことに驚きました。会計士は各社の決算短信の実績の数字などを丁寧にチェックしていますが、投資家が真っ先に見るのは会計士がチェックしていない来期の予想なんですよね。それはカルチャーショックでした。
自分に合った会社を探すことはすごく大事
投資ファンド業界に転職する人は、どういった人が多いのでしょうか。
- やはり新卒で証券会社に入社した人ですね。投資運用会社に新卒で入社している人もいますが、そういった会社は新卒採用が少ないため、あまり多くありません。
もともと株式に興味があったという人が多いのも、この業界の特徴だと思います。学生時代から株式投資のサークルに入って実際に投資を行っていたり、そのためのリサーチをしていたりといった人たちです。
ただ、まったく別の業界から転職して活躍されていることもあります。たとえば半導体業界で働いていた人が、その業界のアナリストとして証券会社で働いているなどといったケースです。
投資ファンド業界は確かに証券会社から来た人が多いのですが、そういったバッググラウンドを持っている人でなければ採用しないといったことはありません。何か専門分野があれば、そこを取っかかりとして活躍するといったことは十分に考えられます。また業界で求められる知識に関しても、たとえばアナリストの資格を取るなど、必要に応じて知識を習得することは可能でしょう。
私も入社後に米国の証券アナリスト資格であるCFA(Chartered Financial Analyst)の勉強をし、資格を取得しました。
活躍されている方に共通する特徴はありますか。
- 株の運用に限ると、やはり、もともと株式に興味がある人、株式投資が好きだという人が多いかなと感じています。時間をかけて調べるなど、好きでなければ厳しい面があります。
ただ求められる素養は、職種によっても大きく変わります。営業であれば、ある程度複雑なことを理解できる能力があり、きちんと人間関係を作ることができるコミュニケーション能力が求められるでしょう。運用の場合は他者と深く関わることは必須ではなく、根気よくリサーチできる人が向いていると思います。
転職してチャレンジする意義をどのように捉えていますか。
- 転職して失敗しても、若いときであればリカバリーできると思うので、思い切ってチャレンジするのも選択肢かとは思います。
私の場合、監査法人からFASに行ったとき、すごくいい職場だなと思ったのですが、現在の会社に転職してもっと仕事が楽しめるようになりました。そのように考えると、自分に合った会社を探すことはすごく大事だと感じます。
これからも投資ファンド業界の最前線で働き続けたい
プライベートでは美術品を収集されていると伺ったのですが、何かきっかけはあったのでしょうか。
- 6年前、当時住んでいた家に引っ越したとき、過去に購入した絵画を壁に飾ったのですが、これはちょっといまいちなんじゃないかと思ったんです。それで、新しい絵画に掛け替えたいと考えたのがきっかけとなり、それ以前よりもさらに興味を持つようになりました。
アートに関しては昔から幅広く議論が行われていて、現代アートにおいてもさまざまな流れや文脈があります。そういったバックグラウンドを理解して作品を見ると、すごく面白いんですよね。
また、美術館やギャラリーに通うようになると、徐々に自分の目が肥えてきて、以前は作品を見てもよく分からなかったことが分かるようになってきた。そういうのがすごく面白くて、寸暇を惜しんで美術館やギャラリーに行き、作品を鑑賞するようになりました。
コロナ禍になり、働き方に変化はあったのでしょうか。
- 基本的に自宅で作業するようになり、働き方は大きく変わりました。私の会社では業務上の理由から出社し続けている人もいますが、私が出社するのは週に1度か2度くらいです。そのときも1日中オフィスにいるわけではなく、込み入った話で直接話す必要があるといった場合に出社し、用事が終わればすぐに帰ります。
ちょうど子育てが大変な時期なのですが、子どもの面倒を見なければならない時間はメールをチェックするぐらいで済ませて、打ち合わせなどの予定も入れないようにしています。その分、深夜や土日の空き時間に仕事を進めるなど、すごく効率的に働くことができています。
最後に、今後の展望を教えてください。
- 基本的には、今後も金融業界や投資ファンド業界でキャリアを積み重ねて行ければと考えています。
それと最前線で働き続けていきたいですね。徐々にポジションが上がったことで、人から報告を受けたり、業務を任せたりすることも増えているのですが、最後までフットワークよく働いていたいと思っています。たとえば作業を人にやってもらう場合でも、自分でもその作業をすることができて、細かいところまでチェックできるようにしておきたいですね。
現状の業務の範囲で言えば、新しいファンドを作り続けていきたいと思います。ビジネスを拡大するためには、新しいETFを生み出し続ける必要があります。そのため、時代の流れや投資家のニーズを汲み取りつつ、新しい商品を開発してビジネスの発展に貢献していくことが目標です。
企業情報
企業名 | シンプレクス・アセット・マネジメント株式会社 |
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住所 | 〒100-6527 東京都千代田区丸の内1-5-1新丸の内ビルディング27階 |
電話番号 | 03-5208-5211 |
Webサイト | https://www.simplexasset.com/ |