ホテル事業を任せられる人材を採用し、スピード感を持って事業改革を推進

  • ⾧浜市
  • 新木産業株式会社
  • 滋賀県

(本インタビューに係る撮影のため、周囲確認の上、一時的にマスクを外して頂いています。) 

新木産業株式会社
社長室長 田中和宏氏

1950年、滋賀県で創業した新木産業株式会社は、アウトソーシング事業と物流・倉庫事業を中核としつつ、日帰り温浴施設およびリゾートホテルの運営なども手がけています。

その同社において事業の立て直しが必要になったとき、事業の1つであるホテルの経営を任せられる人材を外部から採用しました。その背景や人材紹介会社とのコミュニケーションの内容、さらには首都圏人材に求める素養などについて、同社の田中和宏氏に聞きました。

田中 和宏

新木産業株式会社

現在の事業内容について教えてください。

 新木産業株式会社の中核事業となっているのは、製造分野および輸送分野での業務請負、人材派遣を主とするアウトソーシング事業と、滋賀県内の各地に保有している計9カ所の物流センターで倉庫保管と荷役を中心としたサービスを提供する物流・倉庫事業の2つです。

 また、滋賀県湖北地域にて日帰り温浴施設の「北近江リゾート」や、リゾートホテルである「ロテル・デュ・ラク」を運営しているほか、関連会社において自動車教習所や旅行業も展開しています。

 主軸であるアウトソーシング事業や物流・倉庫事業に加え、さまざまな事業を展開している背景には、創業者である祖父の思いがあります。たとえば日帰り温浴施設は、地元の工場で働く人たち、あるいは地域住民のみなさまがゆっくりとくつろぐことができる、憩いの場所を創りたいという祖父の思いから事業が立ち上げられました。

 自動車教習所も、創業者の意向が強く反映されている事業です。もともと別の企業が自動車教習所を運営していたのですが、事業が立ち行かなくなったため、教習所の閉鎖が検討されていました。その話を聞いた創業者は「これからの若者たちが地元で免許を取得できるようにしておきたい」と考えて、事業を引き継ぎました。

 そして経営が2代目に移った後、地方自治体からの要請で琵琶湖国定公園の一角を譲り受け、ロテル・デュ・ラクをオープンしました。このリゾートホテルと日帰り温浴施設をうまく活用しつつツーリズム事業を運営していくために、2013年に北近江観光株式会社を新たなグループ企業として設立しています。

外部人材を採用した経緯を教えてください。

 もともと私はまったく別の業界で働いていたのですが、2017年に家業である新木産業株式会社に入社しました。当初、家業は順風満帆で左うちわの暮らしが待っていると心の底から思っていたのですが、実態を知って顔面蒼白となりました。財務諸表を確認したところ、翌年には資金繰りに窮し、事業が立ちゆかなくなる可能性がある状況にまで追い込まれていたためです。

 以前から日帰り温浴事業やホテル事業の経営は厳しい状況でしたが、これらの事業を続けることができたのは中核事業が盤石だったためです。しかし私が入社した頃には、中核事業の業績も悪化している状況でした。その状態から抜け出すためには、まず中核事業の立て直しが急務であると判断し、入社した1年間はその仕事に注力しました。その後、ホテルや日帰り温浴施設の経営にもメスを入れる必要があると考え、特にホテルの経営を任せられる人材に来ていただくことを決めました。

 実は事業の立て直しを1人で対応するのは、当初から厳しいと感じていました。やってできないことはありませんが、少なくともスピード感を持って対応することは困難です。特にグループ内のホテルの経営まで含めてチェックするということになると、さまざまな専門知識を吸収する必要もあります。そこでメインバンクから紹介された政府系人材紹介会社に相談し、現在のロテル・デュ・ラクの総支配人に入社してもらうことにしました。

 この採用では、政府系人材紹介会社の担当者に我々の状況を数字まで含めてすべてお伝えしたほか、我々の希望や意向についても時間をかけて説明しました。こうした私たちの話にしっかりと耳を傾け、当社の状況や要望に関して詳細まで把握していただけたことが、今回の人材採用の成功につながっていると感じています。

 その担当者との付き合いは今もデロイト トーマツ人材機構にて続いています。最近も新たな人材を紹介していただき、採用することを決めました。当社の状況を継続して伝えており、私たちの状況を理解したうえで最適な人材を紹介してくれていると信じているので、迷うことなく採用に踏み切ることができました。

人材紹介会社と継続して取引するメリットをどのように感じていますか。

 当社が置かれている状況は刻一刻と変化し、その時々でこういった人材がほしいといったニーズが生じます。人材紹介会社と継続してコミュニケーションしていれば、このようなニーズが発生した際、タイムリーに人材を紹介していただくことが可能になること、そして採用できる確度が高まることが大きなメリットだと考えています。

 もしスポットで人材紹介をお願いした場合、最初から自社の事業や経営状況について説明しなければならず、人材を紹介していただくまでにタイムラグが生じてしまいます。また担当者のスキルも分からないため、適切な人材を紹介していただけるかどうかも分からないでしょう。

 しかし、その担当者は私たちの状況を把握しているため、「こういった人材がほしい」と伝えれば「分かりました」と言って適切な人材をすばやく紹介していただくことができます。この差は大きいのではないでしょうか。

 ちなみに、こうして継続して取引できている背景には、やり取りをさせていただくなかで、仕事を進めるうえでの心地よさを感じられたことがあります。私自身、仕事のレスポンスは比較的早いほうですが、その担当者のレスポンスも極めてクイックであり、仕事の判断などにおいて納得感のある意見を得ることができています。また、すべてを伝えなくても理解してくれる、言わば“あうんの呼吸”で通じる部分もあって仕事を進めやすいと感じています。そういった背景から、いつの間にか一緒に働ける相手になりました。

 また紹介後の人材のケアも十分かつ適切なものであり、経営人材を求めている我々は現在進行形でデロイト トーマツ人材機構に対し、当社の事業と親和性の高い人材の紹介をお願いしています。

人材を採用した当時の状況を伺わせてください。

 候補者は3人いて、全員に当社の状況や意向は伝えられていました。そのため、面接では「この状況で何ができますか」と、かなり具体的なところまで深掘りして話すことができました。このようなやり取りを続けるなかで、仕事をお願いする人材として現総支配人はベストだと直感的に捉えていました。

 ただ、誰を採用するかについての最終決定は、ホテルで働いている社員に委ねました。すべて情報を開示したうえで、あなたたちをマネジメントする人間として、どの人と働きたいですかと問いかけました。そのときは候補の人たちに来ていただき、現場の人たちと話してもらいました。その結果、全員が一致して選んだのが現総支配人でした。

実際に新たな人材が入社し、どのような変化が起こりましたか。

 現場にいる社員からは、これこそが仕事なのだと学ぶことができたという声を聞いています。

 現状、私たちのホテルや日帰り温浴施設は過剰投資の状況ですが、気概があれば一定のレベルまでは健全化できると個人的に考えています。その際、源泉となるのは人材でしょう。

 ただ、それまでホテルで働いていた人たちは仕事をしているとは言い切れない部分がありました。しかし新たな総支配人が入ったことで、1つずつ本来のホテルの仕事を学び、身に付けていってくれたと考えています。

 ホテルで働く人材について、別の候補者はすぐに人を入れ替えましょうと言っていました。そのほうが早いからという理由です。それは合理的な判断だと思いますし、私自身その意見を理解しないわけではありません。ただ、それは既存の社員が悪いわけではなく、そういったトレーニングを受けていないからであると思います。そこで積極的に人を入れ替えるのではなく、既存の社員がホテルで求められる仕事をできるように、どんどん磨き上げていくべきだと考えました。

 この意見に総支配人も賛成してくれて、社員に対してホテルの仕事を教えてくれたからこそ、既存の社員から仕事を学ぶことができたといった意見が出てきたのだと思います。

首都圏人材が地域企業に転職した際、どういった点で事業に貢献できると考えていますか。

 首都圏人材と地方でしか働いたことがない人材を比較したとき、大きな違いとして感じるのは圧倒的競争環境にさらされた経験の有無です。すべての首都圏人材がそうだとは思いませんが、この提案が通るかどうかで自分の将来が大きく左右されるといった、自ら考えて行動しなければならない状況を経験している人材は多いと思います。この圧倒的競争環境を経験し、自ら考えて行動できる人材を採用するだけでも、地方の企業において競争の源泉になり得るでしょう。

 やはり地方のビジネス環境は、首都圏のそれと比べると競争が少ないのが現実です。そうした状況下でも、当社は従業員を何らかと競わせて競争力を高めていかなければならないと考えています。このように私が考える背景にあるのは、新木産業株式会社に入社する前に働いていた環境の厳しさです。

 当時、私はコンペに勝ち抜いて案件を獲得できるかどうかが死活問題になりかねない、そういった環境で働いていました。そのような厳しい状況でも、生き抜くためにはなんとか知恵を出してサバイブしていかなければならない。これが首都圏人材に求めたい、もっとも重要なファクターです。

 圧倒的競争環境に身を置いた人材は、自分で考えて行動する力を備えていると思います。逆に言えば、決まったフレームワークに沿って仕事をすることが当たり前になっていて、そこからはみ出したときに自分で考えて行動できないようでは、どこの会社でも厳しいでしょう。

 また地域企業に転職する人材には、転職先企業の事業活動が地域経済にどのようなインパクトを与えるのかについて理解してもらいたいと思います。これに加えて、当社で採用する人材には、所属する組織に年功序列が存在していても、自身の年齢に関係なく、既存の従業員をマネジメントできることを望んでいます。

首都圏人材が地方で働くメリットとしては、どういったことが挙げられるでしょうか。

 これは非常に難しい質問ですね。私自身は東京で働いた後に地域企業に転職しましたが、これは家業であるという制約があったことが大きいと感じています。もし、そういった制約がなければ、地方で働くという選択肢はなかったかもしれません。

 一方で地方にはその地で育まれた文化・歴史などがあり、これを後世に残していくことの重要性や価値を認識している人にとっては、地方で働くことのメリットはあるのではないでしょうか。このような価値を見いだして、総支配人もこの地に来てくれたと考えています。

最後に、今後の展望を伺わせてください。

(本インタビューに係る撮影のため、周囲確認の上、一時的にマスクを外して頂いています) 
 先ほどお話したように、会社を取り巻く状況は刻一刻と変化するので、その時々で必要な人材について「このくらいの年齢の人材がほしい」、あるいは「こういったスキルを持った人を採用したい」などといった形で、長年付き合っているデロイト トーマツ人材機構の担当者に伝え、適切な人材を紹介してもらって採用していくこととなるでしょう。

 このように外部人材の採用を継続する一方で、我々の課題であると認識している、既存の従業員の業務の高度化にも取り組まなければなりません。この課題について、当面の間は新たに採用する外部人材に教育してもらい、それによって従業員の能力のボトムアップを図ることになると思います。

 また地域における雇用の創出も地元企業に求められている使命だと考えており、その点においても努力していく必要があります。

 ただこのような取り組みによって経営人材を充足できたとしても、今後も外部人材を採用するでしょう。自社で育成した人材は、当然ですが自社のことしか知りません。しかし状況によっては、外部の血が必要になるケースもあるのではないかと考えているためです。私自身、ここまで事業を立て直すことができたのは、これまでの自社のやり方に染まっていない部分があるからではないかと思っています。そのため、短期的な観点だけでなく、中長期的にも外部人材の採用を実施していくことになるだろうと考えています。

(本インタビュー内の写真につき無断転用等を禁じます。)

企業情報

企業名 新木産業株式会社
住所 〒529-0231
滋賀県⾧浜市高月町森本95番地
電話番号 0749-85-3344
Webサイト https://arakis.jp/

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